あけましておめでとうございます。
昨年よりはまだ解放感のある正月ですが、それでも新型コロナの新種株がわが国でもじわりと広がりつつあります。私たちの心身にまとわりつく不気味さは拭えず、重苦しさは禁じ得ません。
年末年始のテレビでは、『孤独の~』とか『ぼっち~』といったヒット作品の再放送が目につきます。いずれも、中年男性がひとりでただただ食事をしたり、自然の中で過ごしたりする、ドキュメンタリータッチのドラマやバラエティなのですが、ささやかな体験をじっくりと味わう脱力した充実感に満ちています。コロナ流行以前から人気だったシリーズですが、コロナ禍を乗り切るひとつの生き方を示してくれているようにも思います。
コロナのような日常的不安は、私たちの心身を硬直させます。従来、自律神経は、興奮の際に働く「交感神経」とリラックス時に働く「副交感神経=迷走神経」の2つだと考えられていましたが、じつは副交感神経=迷走神経には、他者との友好的な関係のときに働く「腹側迷走神経」と不安と恐怖から心身が凍りついて動かなくなる際に働く「背側迷走神経」があると説いたのが、「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」(ボージェス『ポリヴェーガル理論入門』2018年)です。
典型的には、動物が極限の恐怖状態で“死んだふり”をする「擬死反射」の際に背側迷走神経が働いているのですが、私たち人間でも日々の不安や恐怖のために何も考えずぼんやりしてしまう場合、この神経が優位になっていると説明されています。
この理論によれば、腹側迷走神経が活発になれば、よりリラックスすることができ、対人交流もスムーズになるはずです。腹側迷走神経を認知行動療法的に活発化しようとする治療法も提唱されていますが(デイナ『セラピーのためのポリヴェーガル理論』2021年)、認知優位になるとますます腹側迷走神経が委縮してしまうかもしれません。
反対に、腹側迷走神経への血流を増加することによってこの神経を刺激しようとする身体的技法もあります(ローゼンバーグ『からだのためのポリヴェーガル理論』2021年)。その基本エクササイズは、仰向けに寝っ転がり、両手の指を組んで首の後ろに置き、顔は正面を向いたまま眼だけを右、あるいは左に、力が抜けるまでじっと固定するというものです。眼球運動は後頚部の筋肉と連動しているため、このエクササイズによって第1頸椎と第2頸椎の位置が修正され、脳神経への血流が改善すると言います。
このような方法が誰にでも有効かどうかはわかりません。しかし、不安緊張が続けば首や肩が張ってくることは、誰もが経験していることです。これは、周囲からの攻撃に身構えている証拠です。このような心身ともに警戒した状態を緩めるために、心の側からも体の側からもあれこれ工夫してみるのはいいことです。
ぜひ、“コロナぼんやり”から抜け出し、ささやかな体験をじっくり味わってみましょう。