クリニックを開院してから半年が過ぎ、たくさんの若い世代の人たちにお会いしてきました。
最近気になったのは、今年の5月にダイエットを始めた人の多さです。極端にやせて夏ごろに受診された方もいましたが、秋になって過食が生じて相談に来られた方の多さが目立ちます。これはもう、「2020年5月発症型摂食障害(別名:新型コロナ誘発性摂食障害?)」という新たな病名をつけていいくらいです。
新型コロナウイルス流行に伴い、わが国の学生の多くは今年3月から自宅待機になりました。その間に運動不足から体重が増えてしまい、5月ごろにダイエットを始めた人が多いようです。
しかし、理由はおそらく運動量だけではありません。新学期を迎えるに当たり、新しいクラスや担任になじめるのだろうか、みんなに勉強でついていけるのだろうかと、期待と緊張に包まれた張り詰めた時間を過ごしていたにちがいありません。4月はなんとか試行錯誤しながら過ごせても、5月になって何に努力すればいいかわからなくなって、溜め込んだエネルギーが一気にダイエットに向かったのではないでしょうか。
問題はそのあとです。体重が減ってもそれなりに過ごしていた学生が、秋になって急に心身のバランスを崩すことが多いのです。6月7月の学校再開の混乱、8月の短い夏休みをなんとか乗り切っても、9月に通常のリズムに戻ってきた際に、緊張の糸が切れたように見えます。日常の問題があらためて見えてきたのかもしれません。
自然災害の場合、被災者は、数日間の茫然自失期、数ヶ月のハネムーン期を経て、数年間の幻滅期に至ると言われます(金吉晴編『心的トラウマの理解とケア』2011年)。新型コロナの事情をそのまま当てはめることはできませんが、今年春の流行拡大から夏までの期間は、テレビでは連日コロナ事情が報じられ、専門家もそうでない人もめいめいのコロナ論を戦わせているようすは、”ハネムーン期”特有の高揚感を伴っていました。
夏に訪れた第二波が秋になってもなかなか収束せず、この緊張感を日常にせざるを得ない現状において、傷つきやすい若い人たちが”幻滅期”の重苦しい不安を察知しているのかもしれません。
しかし若い人は、状況の変化に合わせる柔軟性も持っています。もしコロナ前と違った価値観で将来像を描けるのなら、学生たちもそれに向けて道を見つけていくことができるはずです。
若い世代の未来は、周囲の大人たちが新たな価値観を作っていく柔軟性を持てるかどうかにかかっています。