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心理学

場所の力

 〈のまこころクリニック〉を開院して、早や1ヶ月が経ちました。京都市南部の伏見の地で、3階建ての新築ビルの一番上のワンフロアを借りて診療に当たっています。歴史ある私立学校の広々とした敷地に隣接し、窓からの見晴らしは格別です。診察室の扉を開けて次の患者さんを呼ぶ際に目に入る、立派な鐘を携えた堂々たる伏見教会の塔が、そのつど私に清々しい鋭気を与えてくれます。

 このたび縁あってこの場所を選ぶことになったのですが、一番の理由は、医師になって2年目から3年間、すぐ近くの京都医療センターで――その頃は、国立京都病院と呼ばれていました――研修生活を送ったため、なじみがあったことです。当時指導いただいた内科や外科の先生方が何人も近くで開業されていることも、とても大きな安心材料でした。

 誰でも、今いる場所から大きな影響を受けています。ある土地に立ち寄ったとき、そこで懐かしさを感じていつまでも居たいと思ったり、息苦しさを感じてすぐに立ち去ろうとしたり、怖さを感じてびくびくしてしまったり、あるいは、パワーを感じて自分が強くなった気がするかもしれません。

 ただ、ふだんはなかなか場所からの力を意識することはありません。何かに悩んでいるときはとくに、そのことばかり考えて、自分の置かれている場所にはなかなか目がいかないでしょう。「〈知〉とは本来〈場所〉の学であり(「トピカ」=「トポスの学」)、どのような考えも状況に支配されている」と言われたりもします(中村雄二郎『場所』弘文堂,1989年)。今悩んでいることは、直前に起こったことだけが原因なのではなく、自分が今いる環境の影響も小さくないのかもしれません。

 自分が心地よい、あるいは、元気が出ると思える場所で過ごす時間はとても大事です。自分に力を与えてくれる場所を見つけるためには、自分の素直な感覚をもっともっと信じていいのでしょう。

 私のクリニックも、来られる方々にとってそのような場所だと感じてもらえるよう、私なりに工夫を重ねていきたいと思います。